放牧中

もはや見えぬ光よ かつて私の物だった光よ もう一度私を照らしてくれ

『宇宙よりも遠い場所』を観よう

「ここではないどこか」への憧れ。GLAYが歌にするほど、その憧れは誰しもが抱えることのある感情だ。

「ここではないどこか」への憧れは、時間的かつ空間的な「ここ」への不満の裏返し。玉木マリ(たまき・まり)ことキマリという少女もまた、「ここ」への不満を抱えていた。

高校に入ったら何かを始めたいと思いながらも、なかなか一歩を踏み出すことのできないまま、高校2年生になってしまった(『宇宙よりも遠い場所』公式サイト内STORYから引用)

そんな彼女が100万円を拾ったところから、物語は始まる。

 

大金の持ち主の小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)は、母のいる南極へ行こうと画策していた。そんな報瀬の南極への強い気持ちに心を動かされ、コンビニでアルバイトをしている三宅日向(みやけ・ひなた)、北海道で芸能活動をしている白石結月(しらいし・ゆづき)を巻き込み、キマリたちは南極を目指すようになる。3話までの、いわゆる「仲間集め」回は、シリーズ構成を務める花田十輝の得意技。その中でも特筆すべきは、第3話『フォローバックが止まらない』。この話数でフィーチャーされるのは白石結月だ。

 

結月は、小さな頃から芸能活動をしており、そのためにずっと友達がいなかった。友達のいない「ここ」から逃避すべく、「ここではないどこか」として高校に通い、そこでLINEのやり取りをするような「友達」を作るも、うまくいっていなかった。しかし、彼女は高校を諦めきれない。まだ「ここではないどこか」である高校に「友達」がいるから。ゆえに彼女は南極へ行くことを拒んだ。

そんな話を聞いたキマリが結月を抱きしめるも、キマリたちには自分の気持ちなど分からない、と突き放そうとする。

-引用-

結月「分からないです! だってみなさん、親友同士じゃないですか!」

日向「親友…?」

結月「違うんですか?」

日向「私たち出会って一ヶ月もないぞ」

報瀬「一緒に遊びいったこともないし」

結月「えっ?」

キマリ「ただ同じところに向かおうとしているだけ、今のところは……ねー?」

報瀬「ね」

日向「ね」

(第3話『フォローバックが止まらない』から引用)

キマリたちのやり取りを見た結月は、その夜「友達」にLINEを送りながら、キマリの抱擁を思い出す。友達ってあんな感じなのか、と。そして、眠りについた彼女は夢を見る。ホテルの部屋という「ここ」からキマリたちが、窓の外という「ここではないどこか」へ連れ出そうとする夢を。

目覚めると窓は少しだけ開いていた。「変な夢」と笑う彼女の表情はとても切ない。LINEを見れば「友達」はいなくなっていた。憧れた高校も「ここではないどこか」ではなかった、と沈む彼女に、ノックの音が転がる。キマリたちだ。窓の外から吹く優しい風に揺れるカーテンは、結月の心のよう。

一転すると、太陽眩しい青空。四人で遊びに行った極地研究所では、以前は芸能人だからと写真を拒んだ結月が、キマリたちと嬉しそうに写真を撮っている。キマリたちと南極のオーロラを想像した結月が満面の笑みを見せるラストカットは落涙ものだ。

 

まだ『よりもい』を観ていない方がいるのなら、ぜひ第3話まで観て欲しい。最新の第10話まで観た人も、第3話を再視聴してほしい。上に引用したやり取りを読めば、この主張は納得がいくものだろう。

宇宙よりも遠い場所』は「ここではないどこか」に憧れたことのある者に向けたアニメであり、その気持ちは誰もが持っているものだから、『よりもい』は万人が観るべきアニメなのである。