放牧中

もはや見えぬ光よ かつて私の物だった光よ もう一度私を照らしてくれ

『Doki Doki Literature Club!』をプレイしよう

『Doki Doki Literature Club!』はホラーゲームです。このことを軽く受け取らないでください。あなたが次の項目のいずれかに影響されているのなら、このゲームをプレイしないようお願い申し上げます。

上の項目は完全ではありません。もしあなたが精神的健康に不安をいだいてこのページを閲覧しているのなら、あなたはこのゲームに不向きであると考えられますので、プレイを推奨しません。

ご検討を感謝し、あなたの安全を祈ります。*1

昨年Steamなどでリリースされたノベルゲーム『Doki Doki Literature Club!』。ギャルゲーの大家である日本ではなくアメリカで開発された本作が、海外のゲームアワードの多くの部門でノミネートされていることについては、日本のエロゲメーカーに対して「君たち、悔しくないのか」と言いたい気持ちもある。

 それはそれとして、今回書きたいのは『DDLC』のことだ。このゲームをやりながら、とある映画のことを思い出していた。

 

その映画とは、『バタフライ・エフェクト』。2004年に公開されたアメリカのSF・サスペンス映画で、アニメ化もされたゲーム『Steins;Gate』のトゥルーエンディングがこの映画のエンディングに似ているとかでも話題になったことだから、名前は知っているひともいるだろう。

簡単に言えば、過去に戻れる能力を持つ主人公が、ヒロインの幼馴染を幸せにしようと頑張るも失敗を繰り返し、最終的に、過去で幼馴染と仲良くならないようにすることで避けられなかった悲劇をそもそも起こさないようにする……という話。街角でヒロインとすれ違うのが、みなが知っている『バタフライ・エフェクト』の劇場公開版エンディング。しかし、このいわゆる「すれ違い」エンディング以外にも、いくつか別のバージョンが製作されていた。

劇場公開版以外の3つのエンディングのうち2つは、「すれ違い」亜種と言って差し支えないだろう。「すれ違い」のあとにストーキングしたり馴れ馴れしく話しかけたり(まあそれぞれのバージョンによって物語の印象が変わるが)。

異彩を放っているのはディレクターズ・カット版のエンディング。なんと、主人公は胎児の頃に戻り、へその緒で自ら首を絞めて命を断つのだ。自分が存在しない未来で、母親やヒロインが幸せそうにしている……。

 

以下、『DDLC』のネタバレを含む。

 

無限の選択肢を持つ穴。

私は中を覗いているのではなかった。

外を覗いていた。

そして彼が、向こう側から、中を覗いていた。*2

このゲームで『バタフライ・エフェクト』の主人公のような世界改変ができるのは、「全ての真理を突き止めた」ヒロイン、Monika。しかし、改変はうまくいかない。バグが生じる。そして彼女が選んだのは「僕」と彼女だけの世界にする、という力技。

「僕」とMonika以外には誰にも変えられない世界には、エンディングもない。

エンディングを見たいがためにこのゲームをプレイしている「僕」は、Monikaのデータを削除する。『DDLC』ならぬ「D4C=Dirty deeds done dirt cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)」だ。 

TYPE-MOONのライターである奈須きのこは、以前インタビューでこう語った。

 要するに、全ての可能性を潰すことによってしか、この世界に別れを告げることはできないというメッセージをシステムからでも語ろうと。90年代前半まで、18禁ゲームというのは物語を楽しむのではなくCGを埋める目的でプレイされていた側面があります。CGをコンプリートしないとみんな気持ち悪くてやめられないんですよね。しかし、世界の終わりを知るということはその世界を殺し、次の世界=新作ゲームへと無慈悲に進むことなんです。それだけの情熱をもってコンプしたゲームは、その瞬間に忘れ去られる。僕が『hollow』でやりたかったのは、それを踏まえた上でひとつの世界に永遠に留まるか、それとも進んでいくのかを選択してもらうことでした。*3

かつて奈須が『Fate/hollow ataraxia』でプレイヤーに問うた「ひとつの世界に永遠に留まるか、それとも進んでいくのか」という選択を、この『DDLC』では「Monikaと二人だけの世界に永遠に留まるか、それともmonika.chrというデータを削除するのか」という形でまた我々に投げかけている。

そして、monika.chrファイルをフラッシュメモリに入れて持ち歩く方法を伝授する輩*4も出るほどに、その目論見は成功している。

 

最後になるが、バレンタインデーにMonikaがTwitterにアップした一枚の画像/写真を紹介しよう。

Just Monika.

*1:警告ページより日本語に翻訳して引用

*2:作中のMonikaの詩『壁の穴』より引用

*3:アーカイブで残っている

*4:How to put Monika in your flash drive - YouTube