『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話』を読もう
もうすぐ映画『リズと青い鳥』が公開される『響け! ユーフォニアム』の原作シリーズの最新巻が先日発売された。久美子たちが二年生の話が主に繰り広げられているので、アニメだけ見ている方は、昨年刊行された『響け! ユーフォニアム 波乱の第二楽章』前後編や、スピンオフ『響け! ユーフォニアム 立華高校マーチングバンドへようこそ』を読むことをおすすめしたい。
短編集なので各章ごとに見ていこう。
- 飛び立つ君の背を見上げる(Fine)
- 勉学は学生の義務ですから
- だけど、あのとき
- そして、あのとき
- 上質な休日の過ごし方
- 友達の友達は他人
- 未来を見つめて
- 郷愁の夢
- ツインテール推進計画
- 真昼のイルミネーション
- 木綿のハンカチ
- アンサンブルコンテスト
- 飛び立つ君の背を見上げる(D.C.)
飛び立つ君の背を見上げる(Fine)
久美子たちの一つ上の学年、デカリボン先輩こと優子や夏紀、みぞれや希美たちの卒業式の朝を様子を描いた短編。
みぞれと希美の関係については原作の『第二楽章』で一応決着がついているけれど、『リズと青い鳥』を観たあとで再読したい。なかよし川のイチャイチャも健在。
勉学は学生の義務ですから
久美子たちが夏休みの宿題をしている様子を描いた短編。
ボディーブローのように重たい短編が多いなかで、清涼剤のような役割を果たしてくれているが、それだけに少し物足りない気がしてしまう。
だけど、あのとき
久美子たちの二つ上の学年である香織が同級生のあすかに向けて卒業式に送った手紙の体裁で描かれた短編なのだが……。
端的に言えば、「怪文書」である。
返事、ずっと待ってる。断るにしても、絶対に返事をください。というか、返事がなかったら直接聞きに行くからね。
あすか先輩は逃げたほうがいい。
まあ、『第二楽章』ではペアルック、ペアリングで登場するシーンがあるので、どっちもどっちで、手遅れか……。
そして、あのとき
久美子や秀一の幼馴染であり、あすかの同級生である葵にフォーカスを当てている。
三年時に退部した葵が吹奏楽サークルに入っていることは、『第二楽章』で判明しているのだが、「なぜ彼女がふたたび吹奏楽をやろうとしたのか?」について向き合った短編だ。
妥協と納得を折り重ねて作り上げた思い出は、目に見えた傷はないけれど、他人のものみたいによそよそしい。
上質な休日の過ごし方
久美子たちの後輩、奏と梨々花の休日を綴った短編。
文章からにじみ出ている毒っ気に気付かないふりをしたい。
友達の友達は他人
『立華高校』主人公の佐々木梓の中学時代の友人である芹菜が、緑輝の会話をして佐々木梓を思い浮かべてニヤける……という短編。
緑の真っ直ぐさと芹菜の屈折っぷりが対比されていて、読後には芹菜の梓に対する倒錯した思いに、言い難い気味悪さというか、見てはいけないものを見てしまったという恐怖が残る。
未来を見つめて
あすかたちの卒業旅行を描いた短編。
サンリッチオレンジの花言葉は「未来を見つめて」であり章題にもなっているが、ひまわり全体の花言葉は「あこがれ」、「あなただけを見つめる」、「愛慕」。
この花言葉を知っている中世古香織に、改めてヤバさを実感する。
郷愁の夢
吹奏楽部の外部指導員である新山聡美ととある女性の、学生時代のやりとりを描いた短編。
学生時代から変わらないはしもっちゃんに癒やされる。それ以外になにか言うのは無粋だろう。
ツインテール推進計画
ではない。
「なんやこいつら。いちゃついてんちゃうぞ、シャーッ」
夏紀先輩がかわいい。
真昼のイルミネーション
夏紀と希美の珍しい組み合わせのやりとりを楽しむ短編。なかよし川とか、のぞみぞれとか、王道もいいけど、こういうのもいいよね……。
木綿のハンカチ
後藤と梨子のカップルの話。読んでいるこっちは惨めになってくる。ごちそうさまです、あるいは、リア充爆発しろ。
アンサンブルコンテスト
中編とも言える量の短編。
「だって、いちばんがいいでしょ。麗奈に選ばれるなら」
だったり
「……断られたら、嫌やん」
だったり。ごちそうさまです。
それはさておき、奏のグループが投票で2位止まりだったことや、久美子とパーカス勢との絡みなど、第三楽章に向けて楽しみな要素が盛りだくさんだった。
飛び立つ君の背を見上げる(D.C.)
ふたたび、優子たちの卒業式の朝の話へ。
香織先輩を見習って、夏紀への手紙を書いた優子。先ほどの怪文書とは違って、読んでいてニヤニヤできる。
同じ章題でありながら、(Fine)と(D.C.)と音楽記号が異なる二つの短編。なかよし川の関係のことがD.C.(繰り返し)であるなら、希美とみぞれの関係は……
『リズと青い鳥』が楽しみだ。いや、正確には、
ワクワクとドキドキが半分ずつ
――「真昼のイルミネーション」より引用
かな。