放牧中

もはや見えぬ光よ かつて私の物だった光よ もう一度私を照らしてくれ

『リズと青い鳥』では傘木希美の足を見よう

公開日から毎週、『リズと青い鳥』を観に行っている。

来週の舞台挨拶も行く予定だ(舞台挨拶のレポート記事も上げたい)。

3度目の今回は、「傘木希美の足」に注目した。

「鎧塚みぞれの手」にも注目していたのだが、情報量にパンクしてしまったので、またの機会にしたい。他にも、「彼女たちは校舎のどこの廊下を歩いていたのか」ということもずっと考えているのだが、断言できるほどではないので、これもまたの機会にしたい。

 

ということで、希美の足に注目しよう。

山田尚子監督は、多くのインタビューでこういうことを言っている。

口から出ている言葉が本心かどうかは本人しか分からない。強がっているだけかもしれないし、後ろめたさや本心みたいなものは足や手に出てくるのではないか。そう考えた映し方です。*1

『映画「けいおん!」』での脚のロングカットに代表されるように、山田監督は過去作でも脚や手の芝居にこだわってきた。

目は口ほどに物を言うように足もそうだろうなと思っていて。足は机の下に隠れてしまって人に見えない部分なので、理性ではなくて本能が出てしまうところだと思います。恥ずかしかったら足をジタバタさせたり。そういうのがすごく見たいなと。

【レポート】映画『たまこラブストーリー』第18回文化庁メディア芸術祭新人賞受賞記念:高橋良輔監督×山田尚子監督対談 - 忘れられた庭の静かな片隅

 だからこそ、希美の足に注目してみよう。

 

まずは、梨々花にみぞれのことを相談されているシーン。

希美は、みぞれとの仲を「仲良い、と思うよ」と言いながら、トンとつま先で床を叩く。

新山先生に音大受験を告げるシーンと、夏紀と優子にソロを心配されているシーンでも、つま先で床を叩いている。

 

彼女の足が別の演技をしているシーンにも注目しよう。

久美子と麗奈の演奏を聴いた後のシーン。自分は本当に音大を受けたいのか、そう呟いた彼女は体育座りしながら、足を引く。

ここでもやはり後ろめたさが足に現れている。

 

逆に、一歩踏み出すシーンもある。

みぞれの圧倒的な演奏の後、生物学準備室で二人っきりでいるとき。

「ずるいよ、みぞれは……」と言って左足を踏み出す。

それに対し、みぞれは一歩下がってしまう。

互いに歩み寄ることができないことを象徴しているようなシーンだ。

 

みぞれの足の動きにも注目したので、もうひとつ、みぞれの足のシーンを取り上げよう。

みぞれがピアノを引きながら、3年生4人で音楽室にいる場面。

希美が決めたことがみぞれの決めたこと、みぞれからそれを聞いて複雑な表情を浮かべる優子と夏紀の二人に、希美が「みぞれのジョークじゃん」と言うと、みぞれは両足を引く。

見ていられなくなるせつないor苦しいシーン。

 

言葉にならない心の機微を、足や手の動きによって魅せてきた山田尚子監督。

同じ時代に生き、彼女の作品を観られる喜びを今後も味わっていきたい。

 

追記:希美の足でまだ触れておきたいことがあった。

オーディションに落ちた梨々花を励まそうとして、希美からプールに誘われたみぞれが梨々花を呼んでもいいか訊ねた後の場面。

希美は「いいよ」と言いながら、両足でバツ印をつくる。

ここも見逃せない。すべてに注目してほしい。