放牧中

もはや見えぬ光よ かつて私の物だった光よ もう一度私を照らしてくれ

人を救う方法、あるいは『ティモシー・アーチャーの転生』の感想

あたしはなぜみんながこの世にいるのかわかるような気がした。最も愛するものが奪い去られるというのを思い知るためで、しかもそれですら何か計画的に奪われるんじゃなくて、えらい連中の手ちがいのせいなんだろうと悟るためなんだ。

 

ジョン・レノンが死んだ日、エンジェルは亡くなった友人たちを思い出す。
手遅れの後悔と共に……。

『ティモシー・アーチャーの転生』は、救いの小説だ。

聖書や神曲、イェイツの詩を引用したって、人を救うことなんてできない。
膨大な知識を持っていたとしても、むしろ死に追いやられてしまう。

ではどうすれば人を救うことができるのだろう?
フィリップ・K・ディックは、遺作となったこの小説で答えを出した。

誰かを受け入れる。
簡単だが容易ではない、その行為こそが、真に人を救えるのだ。

 

好きな文章は多々あれど、「引用に逃げるな、身の丈を知れ」と言っているこの小説でそれをするのも失礼だろう。