放牧中

もはや見えぬ光よ かつて私の物だった光よ もう一度私を照らしてくれ

夏が来たので『AIR』を観る

また夏が来た。

 

AIR』11話「うみ~sea~」

絵コンテ・演出:三好一郎

 

Aパート

3:00ごろ

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「誰だろう」とカラスのそらのモノローグの後、サブタイトルが表示される。
この構図を忘れず覚えておきたい。

 

9:20ごろ

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晴子が少しはみ出ている。
ふたりで親子としてやり直すことを決意し、お決まりのピースをする観鈴と晴子のカットの後、

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ふたりは抱き合う。

先ほどの画像と比べると、カメラが手前に引いたような構図になったことで、はみ出ていた晴子が観鈴と同じようにきちんと収まっている。

 

Bパート

15:30ごろ

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記憶喪失の観鈴を連れて、どこかへ向かう晴子。
その行き先は、台詞と絵で示される。

 

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海だ。
しかし、海に向かって歩いているはずなのに、まったく進んでいるように見えない。
その嫌な予感は的中し、彼女たちは海に辿り着かない。

例えば、直前のシーンのように、右から左へ歩いていくような構図だったらどうなるか。

彼女たちは進んでしまう。

 

17:50ごろ

観鈴の部屋に侵入してきた蝉を逃した晴子。

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気まずい。
ふたりの間にはベッドしかないのに、ふたりの距離は遠い。
そそくさと部屋を出ていこうとする晴子だが、観鈴は彼女にトランプを差し出す。

 

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ふたりの間にベッドがあるのに、ふたりの距離は縮まった。

 

19:00ごろ

夕焼けが刻一刻と変わっていく。
キャプの代わりに、三好さんのコメントを載せておく。

特にラストの夕景シーンでは4~5段階ほどで暮れていく様子を演出のワガママで背景、色指定の担当者に表現していただきました。
このような作業は普通のシリーズではありえません。労力に見合う効果が期待できないからです。
結果、色指定さんは「わかんねェ~」と泣いていましたがAIRという作品はそれをやらせてしまうだけの力を持っているんですね。*1

 

22:10ごろ

ずっと観鈴のそばにいた人は、観鈴の母親だった。

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11話は、晴子が観鈴の母親だとそらが気付くまでの話だった。

最初のキャプと見比べてほしい。

 

12話にも関係してくるのだが、観鈴がそらを連れて外出したときも、記憶を失った観鈴と晴子が敬介(観鈴の実父)に出会うのも、眠っている観鈴を敬介に引き渡そうとするのも、どろり濃厚ピーチ味の自販機のある武田商店の前ということには注目したい。

ここから先は、ゴールがなければ、そして自分の足で歩かなければ進めない場所なのだ。

観鈴がその先に進めたかどうかは、12話を観て確認してほしい。

現実の事件を受けて放送を自粛したアニメ

事件や災害の影響で放送を特別放送に切り替えたものではなく、作中の描写が事件との共通点があったために自粛したものを取り上げた。

事件の詳細はここでは記さないことにした。

 

2007年夏秋クール放送作品『ひぐらしのなく頃に解』(全24話)

同年9月18日(火)に発生した京田辺警察官殺害事件の影響。

最速放送だった中京圏東海テレビでは、9月20日(木)の第12話放送を休止し、11月12日(月)に打ち切りが本作の制作を手がけたスタジオディーンの公式サイトで発表された*1。事件の起きた地域の放送局のKBS京都では、9月21日(金)の第12話放送を休止。一週間後の28日(金)に放送再開を決定し、最終回まで放送。テレ玉では、10月1日(月)の第13話放送をもって打ち切り(余談だが13話で皆殺し編が終わるので切りのいいタイミングではあった)。

10月5日(金)には、『ひぐらしのなく頃に解』公式サイトに放送休止に関しての声明が掲載された。

「ひぐらしのなく頃に解」放送休止に関しまして

放送が観られなくなった視聴者への救済措置として、製作委員会のフロンティアワークスが運営するアニメイトTVで第12話以降を期間限定で無料配信した。具体的には、10月24日(水)から31日(水)まで第12話と第13話、以降1話ずつ一週間限定で無料配信した。

 

2007年夏クール放送作品『School Days』(全12話)

前述した京田辺警察官殺害事件の影響。

最速局のtvkで事件のあった9月18日(火)の深夜に放送予定だった第12話(最終話)がヨーロッパの美しい景色を映した紀行番組に差し替えられた。有名な「Nice boat.」はこうして誕生した。その後も19日(水)放送予定だったチバテレとテレビ愛知20日(木)放送予定だったテレ玉、21日(金)放送予定だったテレビ大阪と地上波全局で放送は休止。事実上の打ち切りとなった。

視聴者が第12話を観ることができたのは9月27日(木)。2週遅れだったAT-Xでの放送だけではなく、秋葉原UDX東京アニメセンター(現在は市ヶ谷)にて原作のオーバーフロー主催の試写会が実施された*2

 

2014年夏クール放送作品『PHYCHO-PASS サイコパス 新編集版』(全11話) 第4話

同年7月26日(日)に発生した佐世保女子高生殺害事件の影響。

7月31日(木)に公式ツイッターで第5話を繰り上げて放送することと、今後第4話を放送する予定がないことが発表された*3

2014年10月9日(木)に行われたニコニコ生放送での一挙配信では、第4話も配信された。

 

2015年冬春クール放送作品『暗殺教室』(第一期) (全22話)

同年1月20日(火)に動画が公開されたことで明らかになった、ISILによる日本人拘束事件の影響。放送局であるフジテレビの亀山千広社長(当時)は、身代金の交渉期限が第3話のオンエア(23日(金)深夜)と同時刻であったことを理由に上げている*4

25日(日)に邦人の人質1名が殺害されたが、交渉期限を過ぎたからなのか、翌週の30日(金)には第3話が放送され、以降の話数も一週ずつズレる形で放送された。

 

2015年冬クール放送作品『探偵歌劇 ミルキィホームズTD』(全12話) 第5話

サブタイトルが「キャロルの身代金」だったため、前述のISILによる日本人拘束事件の影響。TOKYO MXほか各局では1月31日(土)に放送予定だったが、第1話の再放送に差し替えられた。AT-XではアニメソングPV番組に差し替わった。第5話は、第7話を放送した翌週の2月21日(土)から放送され、第8話以降は1週繰り下げになった。

なお、ニコニコ生放送やニコニコチャンネル、バンダイチャンネルでのネット配信は通常通り行われた*5

 

『天気の子』は「エヴァの呪縛」を乗り越えた

 時に彼は夢をみた。一つのはしごが地の上に立っていて、その頂は天に達し、神の使たちがそれを上り下りしているのを見た。

――創世記 28:12

『天気の子』はセカイ系であり、それでいてセカイ系を否定した作品である。

この主張は一見、矛盾している。しかし、その矛盾はセカイ系という言葉がWell-definedなものではないことに起因する。

正確に言うならばこうだろう。

『天気の子』はセカイ系――いわゆる、世界の命運を主人公とヒロインが握っている作品――であり、それでいてセカイ系――つまり、ヒロインの犠牲で世界が救われるような結末――を否定した作品である。

 

セカイ系について語るということは、エヴァについても言及しなければならない。一般的にセカイ系と言われる作品は、エヴァとの比較をされた後に、セカイ系というレッテルを貼られてきたからだ。庵野秀明は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』において「エヴァの呪縛」という言葉を用いた。そう、セカイ系とは「エヴァの呪縛」なのだ。

エヴァの呪縛」からの脱却を目指すのが、2020年6月公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』なのだろう。しかし、『Q』の前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で「エヴァの呪縛」からの脱却を試みていたことを確認しておきたい。

『破』の終盤、碇シンジは第十の使徒に取り込まれた綾波レイを救う。

僕がどうなったっていい……世界がどうなったっていい……だけど綾波は……せめて綾波だけは……絶対に助ける!

世界とヒロインとを天秤にかけ、ヒロインを選びとるシンジ。旧作にはない展開であり、「エヴァの呪縛」からの脱却を試みたことがうかがえる。しかし、その挑戦は『Q』において失敗に終わったことが発覚する。

 

『天気の子』に戻ろう。豪雨の続く東京。ヒロインの陽菜が人柱となることで天候が回復するが、「もう晴れなくていいから、陽菜に戻ってほしい」と主人公の帆高は、世界と陽菜とを天秤にかけ、後者を選ぶ。水没した東京で、帆高と陽菜は再会する。こうして『天気の子』は「エヴァの呪縛」を乗り越えた。

 

明るくない世界で、それでも生きていくことを提示したこの作品は、雲の隙間から差し込む光――天使の梯子のように、我々の未来を照らしている。

それでも、わたしたち……生きていかなくっちゃいけないんだね……

――『天使のいない12月』 より